東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)34号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
前記争いのない事実及び成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一・二、第四号証によると、次のように認めることができる。
本願発明と先願発明とは、いずれも薄い断片においてその燃焼性を低下させた強化ポリアルキレンテレフタレートに関するものであつて、固有粘度〇・二~一・二dl/gのポリプロピレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートに芳香族ハロゲン化物、Vb族金属化合物及び強化剤を配合した樹脂組成物である点で相違はないが、本願発明においては強化剤と共に補助強化剤の併用を必須要件とし、特許請求の範囲において、強化剤としてブレンド樹脂成形物中において長さ対直径の比が五〇対一より小さい粒子のものを、補助強化剤として、同じく成形物中において長さ対直径の比が五〇対一より大きいものを使用する(しかも、後者は組成物全体に対し〇・七五重量パーセント以上の割合で)旨限定しているものである。
そして、更に、第一実験は、先願発明の実施例二の追試として、その実施例におけるガス繊維の添加が、本願発明の要件である強化剤及び補助強化剤の併用を実施することに外ならないことを示そうとするものであるが、その実施例二が長さ<省略>インチ(原料段階において)のガラス繊維を用いていることについては、当事者間に争いがない(先願発明の公報記載の<省略>が、<省略>の誤記であることは出願当初の明細書の記載によつて明らかである。)。
しかるに第一実験は、長さが六ミリメートル(<省略>インチ)(原料段階において)のガラス繊維を使用しており、先願発明が要件とする強化剤(補強剤)の技術的範囲の実施態様に属しこそすれ、その実施例二の条件とは明らかに相違した実験であつて、先願発明における実施例二の正確な追試であるとすることは到底できない。
そして先願発明の明細書中には、本願発明における強化剤と補助強化剤の二種併用を必須要件とするような、選択、限定の技術的開示は何ら示されていない。
ところで、本件審決は、第一実験を根拠として、先願発明を上位概念とする本願発明の選択、限定の技術的思想は、先願発明の実施例に開示されているとして、本願発明は先願発明と同一と結論づけているのであるから、右のように、その前提とする第一実験が、実施の条件を誤つたものであり、先願発明の実施例二の追試ということができない以上、これを根拠として先願発明と本願発明との異同を対比することにおいて、その結論に影響を及ぼすべき重大な判断の誤りをおかしているといわなければならず、その余の点について検討するまでもなく、違法であるから、取消されねばならない。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ポリプロピレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートより成る群より選ばれるポリアルキレンテレフタレート(ポリアルキレンテレフタレートは〇・二~一・二デシリツトル/グラムの固有粘度を有する);成形物中において長さ対直径の比が五〇:一よりも小さい粒子より成る強化剤;ポリアルキレンテレフタレートの溶融過程に必要な温度において安定で且つポリアルキレンテレフタレートの燃焼温度において分解可能な芳香族ハロゲン化物;Vb族金属含有化合物(ここにおいて芳香族ハロゲン化物中の有効ハロゲン対Vb族金属含有化合物中の有効Vb金属の重量比は〇・三~四である);及び全組成物の重量基準で少なくとも〇・七五重量パーセントの成形物中において長さ対直径の比が五〇:一よりも大きい補助強化剤の緊密ブレンドからなることを特徴とする少なくともその一部が<省略>インチ以下の厚さを有する物品に成形された場合において燃焼特性が減少した改良成形樹脂